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「お初,といったな」
「はい。私は,姫様から離れません。いくら…水瀬様の命でも」
お初は,忠行を真っ正直から見据え,頭を垂れた。
「良い。我が妻の側近をこれまで通りにこなすのだ」
「有り難く存じ上げまする」
――我が妻,か
楓は,花嫁衣装から,普段身に付けている女物の着物に着替え,忠行,お初と対面している。
「楓。お前に,新しい名をやろうと思う。如何か?」
忠行は,楓に視線を向ける。
「私,は………」
今まで意見を求められた事が無かった楓は,狼狽してしまった。
「異存は,無かろうか?」
忠行が尋ねると,楓は頷いた。
名等,特に気にはしない。
ついこの前,時雨から楓になったのだ。
楓から如何なる名になろうとも興味は無い。
「お初も――異存は無いな?」
忠行はお初にも確認の意を取っている。
こんな,殿様のくせに珍しい,と楓は頭の端で考えていた。
「私の意見は,姫様が申した事全てでござりまする」
「なら,良いな。楓。お前を美しい,と言った事を覚えておるか」
――美しい
「覚えて……おりまする」
楓の言葉に,忠行は満足気に頷いた。
「お前の名は,あの戦場で出逢った時から決めておった」
――私の名を,この男が……
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