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「父上,時雨……参りました」 「顔を上げろ」 父の声を聞き,「はい」と応え,時雨は顔を上げた。 「時雨。お前も改名の歳になった。今此処で,時雨の名では無く,皐夜楓と名乗れ」 ―――皐夜楓―― 完全に,女の名だ。 「有り難く……存じます…」 「用はそれだけだ。下がれ」 一度頭を下げると,時雨,改め楓は,足音も立てずに部屋へ下がった。 「父上……時雨が可哀想です。確かに女人の様に,美貌ですが,彼は男ですぞ?」 楓の兄,皐夜家の長男一明は,数多くの家臣の前であるのに,父に抗議の意を唱えた。 「我が皐夜家安泰のためだ。致し方無い事だ」 父,一志はにべも無く応えた。 「そうだ兄上。今は戦国の世だ。致し方無い事,それに,時雨も了解の意を示している」 皐夜家次男,猛火は父を庇いに入った。
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