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「あー。へえ、負けたのか」
三十路を越えた独り身の お兄さんが、からかう風にして そう返した。彼は、テーブルを挟んだ向かい側で、新聞に目を落としている。テーブルには缶チューハイが三本置かれていて、そのうち二本は空だった。
わざと戯(おど)けて興味が無さそうに振る舞うのは――それは、どこまでも素直でない、二重の演技――とても彼らしい。
ああ、そうですよ、負けました。もう、救い様が無いくらいに、見事に玉砕しましたとも。
「あーあ。頑張んなきゃ良かった」
頑張った自分が馬鹿みたいだ。結果がこうなら、最初から頑張らなければ良かった。そうすれば、こんな気持ちには ならなかったのに。
そんなことを今更思っても、いや、違うだろう。全力を尽くしたい、ただそれだけだったのだ。けれど、頑張るうちにいつの間にか期待をしてしまっていた。そうして、のまれた。
「そうだな」
戯けた声は、先程よりもトーンが下がっていた。
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