(起)

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 中学生達に囲まれ、既に涙を目に浮かべ怯えていた優也は、僕を見つけるなり、大声で僕の名を叫んだ。 「アキラー、助けてーっ」  優也を取り囲んでいる中学生達の一人は、ガタイが良く、あとの三人も痩せてはいるが、背丈は小学五年の僕を軽く上回る程だ。 「なんだ、このガキ。お前もヤラレに来たのか?」  とガタイの大きな中学生が鋭い眼光で睨んでくる。  ついこの間までの僕なら、怖さの余りに怖じ気づき、優也の立っている場所に僕が居ても可笑しくは無かっただろう……  だけど、今の僕にはコレ(水晶玉)がある。  ゆっくりと四人の下へと向かって歩いてゆくアキラの手の中で、握りしめられた水晶玉が光り輝く。 「友達から奪ったお金、返してあげてよ」  と、四人に対して勇ましい態度で問いかけるアキラ。  痩せた三人の内の一人が、噛んでいたガムを膨らませ、音を立てて壊れた。 「ふん、お前の金も貰ってやるよ!」  ガタイの大きな中学生は、そう言うとアキラに向かって大きく拳を振りかぶった。  だが、紙一重で拳をかわすアキラ。「マグレ」では無く、アキラの目には、相手の拳の軌道がハッキリと見えているのだろう。    一発目の渾身の一打をかわされ、驚きと悔しさで、頭に血が上ったガタイの大きな中学生は、何十発もの拳をアキラに打ち放つ。しかし、それらの攻撃も全て、紙一重で回避してゆく。  アキラの驚くべき動きに、口をポカンと開いたままになっている残りの三人。  さすがに疲れが顔に出てきたのを見抜いたアキラは、強烈な一撃の拳を相手の腹部にめり込ました。  鈍い音と共に、ガタイの大きな中学生の体が「くの字」に曲がるや否や、後方に大きく吹っ飛び地面に崩れ落ちる。  崩れ落ちた中学生は、余りの拳の力に内臓が悲鳴を上げ嘔吐した。その姿に、残りの三人の中学生は、お互いの顔を見合わせ一目散に逃げていった。  アキラは、地面に転がっている優也のお金を拾い集めた。 「ほら、お金返ってきて良かったな」  差し出された優也の掌に、アキラの手から小銭がジャラリと返される。  優也は、先程までの悲愴感溢れる表情から、まるで救世主を見るような憧れの眼差しへと変わっていた。 「マジ凄いよアキラ。やっぱしアキラは、ヒーローだよ」 「ははは、また困った事があったらいつでも呼んでくれよな」  笑顔で返すアキラ。  二人は、ゆっくりとお化け公園を後にした。
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