(起)

4/6
前へ
/42ページ
次へ
 始めは、自動車に撥(は)ねられそうになった時だ。塾の帰り道で信号を渡ろうとした時、白いスポーツカーが、信号を無視しながら突っ込んできた。  速度を落とす気配も無く、物凄い勢いで僕に迫ってくるスポーツカー。  もうダメだ! と思った瞬間、ズボンのポケットに入れていた水晶玉……まぁ、この時は綺麗なガラス玉だと思っていたけど、それが一瞬光った様な気がした。  次の瞬間、僕は、無意識のうちにスポーツカーのボンネットに強烈なパンチを放っていた! 自分でも驚いたよ…  ボンネットを凹ました時の、不思議な感触は今でもハッキリ覚えている。  --(何て柔らかいんだ……)  まるで、ダンボール箱を思いっ切り殴った時のようだ。だが、金属が悲鳴を上げながら形を変え、千切れていく音が凄まじかったのは言うまでもない。    スポーツカーは僕のパンチで、瞬時に急停止し、凹んだボンネットの隙間からは、見た事の無いような複雑な機械の部品が飛び散っていた。  運転していた人は、衝撃で、フロントガラスにヒビが入る程に頭をぶつけていたが、何とか助かったみたいだ。  正直、水晶玉の力なんて考えもしなかった。でも自分ですら、説明する事の出来ない事が、起こった事は確かだった。  そして、次に起こった出来事で、僕は水晶玉の力の存在を知る事となる。  あれは正(まさ)しく決定的だった。  笑い事じゃないけど、学校の屋上から落ちたんだから。何で落ちたかって言うと…屋上に整理されていた古い机や資材を使ってアスレチックジムを作って遊んでいたんだ。  なんとなく「危ない」って解るだろ?  トランポリンを使って障害物を飛び越えようと思ったら、勢い余ってフェンスを飛び越えてしまったってわけ。 「もうダメだっ!」って思ったとき、目の前で水晶玉が輝きだして、無意識のうちにその玉を掴んだんだ。  そしたら、急に体が軽くなって、ゆっくりと地面に着地ができた。  友達もビックリしていたけど、僕自身が一番驚いたね。  その時に思った……この玉は僕に凄い力を与えてくれるって。  それから、どうやったらこの水晶玉の力を自由に使う事ができるのか、毎日練習しているうちに少しづつ「コツ」が解ってきて、今では、意のままに力を使う事ができる。  この水晶玉がある限り、僕はヒーローだ。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加