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「おい、祐太っ! なにすんだよ! マジいてぇんだけどっ!」
「だから?」
「お前が突き飛ばしたからだろ!」
「だから?」
「んだよ……なんで俺が殴られてんだよ……」
今度は拗ね始め、勝手に桜の樹の下でまたしゃがみこんでいる。
「えっと……藤田くんだよね? 一組の」
やっと状況が把握できたのか、俺を無視してしゃがみこんでる藤田に話し掛ける咲山。
当然の如く、拗ねている藤田には流されているが。
「俺が突き飛ばしたんだよ。あいつを殴るのは勝手だが、お前は女だ。報復やらなんやらやられんだろうからな」
「あら? 貴方が私を助けてくれたの? 中嶋祐太くん」
嫌味たっぷりにしかも笑顔でそう言う咲山に少々驚いた。
まぁ、咲山にとっちゃ俺みたいな茶髪は嫌いなんだろうが。
「おい、行くぞ。いつまで拗ねてんだ」
足元に座り込む藤田を本気で蹴る。
「ぐぇっ」などは聞かなかったことにした。
「本当に驚いたのよ? 例え、告白されても全く笑わずに女の子が泣いてるのにも関わらず延々と酷いことを言い続けるあの中嶋祐太がねぇ?」
バカにしたように言う咲山にたった今すっきりしたばかりなのにイラつきが貯まる。
「だから?」
「明日が怖いわぁ~、中嶋くんファンに血祭りにあげられちゃう」
全くもって人の話を聞かない。
助けてやったのに、なんて恩を売る気はないがこれはさすがに頭にきた。
俺はうずくまり続ける藤田の襟を掴み歩き始めた。何かを言ってる藤田は無視して。
「あ、ちょっと!」
「あ?」
咲山に呼ばれ、振り返る。
濃紺のセーラー服を着くずさずに身を包んでいる。スカートは膝がぎりぎり見える丈で同じく濃紺の靴下。綺麗な黒髪は校則指定の黒いゴムできっちりとまとめられ、化粧など全くされていないのに誰もが振り返るような容姿。
そんな咲山が微笑みながらじっと俺を見つめている。
「ありがと……お礼は言わないとね」
そしてそれだけ言って校舎の方へ走っていった。
俺はそのまましばらく呆然とその場につっ立っていた。
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