プロローグ

2/2
前へ
/75ページ
次へ
(紅い、な……) そう思いながら、ジーク・ニーベルンゲンは虚空を眺めた。 目の前に拡がる景色は全て紅。  床も壁も天井も全てが紅一色で染まっている。 だが、本来この部屋の色は紅ではない。  むしろ、紅とは真逆の、大理石を基調とした白で統一されていたはずだ。 では、一体何がこの部屋を紅一色に染め上げてしまったのだろうか? 答えは少し考えたら分かった。  その景色を見ている目に紅色の何かが付着しているのだ。 その何かとは、血…… そう、ジーク・ニーベルンゲンは今、血溜まりの中で横たわっていた。 視界に見えるのは胸に突き刺さった剣と、自分の隣で泣き喚き、悪鬼のような形相で自分を睨み付けている一人の男。 一目で名剣と判るその剣は、刀身を鮮血に染め、深々と自分の胸の中心に突き刺さっている。 そんな状態だというのに、ジークの心は落ち着いていた。  いや、ただ心が麻痺していたのかもしれない。 痛みはなく、あるのはただ、空虚感のみ。 無限に思われる刹那の時の中、ジークは目の前に自分がこれまでに経験してきた出来事が、次々と浮かんでくる事に気が付いた。 (これが走馬灯、ってやつか……) ジークは泡の様に浮かんでは消える記憶の数々を見つめ、僅かなの安らぎを憶え、 そして、二度と戻ってこない、これらの日々に対する哀愁に心が締め付けられた……
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加