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(紅い、な……)
そう思いながら、ジーク・ニーベルンゲンは虚空を眺めた。
目の前に拡がる景色は全て紅。
床も壁も天井も全てが紅一色で染まっている。
だが、本来この部屋の色は紅ではない。
むしろ、紅とは真逆の、大理石を基調とした白で統一されていたはずだ。
では、一体何がこの部屋を紅一色に染め上げてしまったのだろうか?
答えは少し考えたら分かった。
その景色を見ている目に紅色の何かが付着しているのだ。
その何かとは、血……
そう、ジーク・ニーベルンゲンは今、血溜まりの中で横たわっていた。
視界に見えるのは胸に突き刺さった剣と、自分の隣で泣き喚き、悪鬼のような形相で自分を睨み付けている一人の男。
一目で名剣と判るその剣は、刀身を鮮血に染め、深々と自分の胸の中心に突き刺さっている。
そんな状態だというのに、ジークの心は落ち着いていた。
いや、ただ心が麻痺していたのかもしれない。
痛みはなく、あるのはただ、空虚感のみ。
無限に思われる刹那の時の中、ジークは目の前に自分がこれまでに経験してきた出来事が、次々と浮かんでくる事に気が付いた。
(これが走馬灯、ってやつか……)
ジークは泡の様に浮かんでは消える記憶の数々を見つめ、僅かなの安らぎを憶え、
そして、二度と戻ってこない、これらの日々に対する哀愁に心が締め付けられた……
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