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黒い森
子供の頃、俺はいわゆる神童というやつだった。
小さな辺境の村の生まれながら、俺は若干五歳にして大人でも理解出来ない魔導書を読み、
そして選ばれた者しか扱う事の出来ない魔法を使う事が出来た。
まあ、『選ばれた者だけ』というのは大袈裟かもしれないが、
それでも一般に、幼少の頃から訓練を重ね、大人になってようやく魔法を習得する者が大半の中、俺はやはり異例の存在だったのだろう。
自分で言うのもなんだが、俺は本物の天才だった。
だが、村の人間がそんな俺を快く思っていたかと問われたら、答えは否だ。
人は自分と異なる存在を恐れる――小さな村なら尚更に、だ。
魔法を使えない者が大半の村の中で、俺の存在は完全に異質な物だった。
村の大人達は、俺をまるで化物を見る様な目で見て、
そして、その態度は当然、子供達の間にも広がった。
俺はいつも孤立し、周りの子供には罵声と石を投げられ、友達と呼べる存在もないまま成長した。
そして、あの事件が起こった……
ある日、俺をいじめていた子供の一人が、俺が大事にしていた魔導書をビリビリに破り捨てたのだ。
その魔導書は母が俺の五歳の誕生日に買ってくれた物で、当時の俺には命の次に大事な物だった。
当然、俺は烈火の如く怒り、そして、
――そして、あろうことか、その子を魔法で攻撃してしまったのだ。
今にして思えば、なんて事をしたのだとつくづく思う。
魔力を持たない人間が魔法を受ければ、その魔法を直接受ける事になり、最下級呪文でも死に至る事がある。
幸運にもその子が死ななかったのは、その子にも少なからず魔力の素質があったのと、俺が魔法を撃ち出す際、僅かに躊躇したのが幸いしたのだろう。
結果として死人は出さなかったが、村は大騒動となった。
俺の火球を受けた子供は全身大火傷の重体。
当然、俺は捕らえられ、俺の処分を決める会合が行われた。
村人達はこれ幸いと俺を死刑にしようとしたが、俺の母親が身を呈してこれを防いでくれた。
そして出た結論は、村からの追放……
母はそれも防ごうとしたらしいが、さすがにそれは村人達が許さなかった。
俺は眠らされ、気が付いた時には黒い森の中に一人、取り残されていた。
走馬灯は廻る……
悲しみのあの日から……
始まりのあの日から……
くるくる、くるくる……
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