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そろそろ初夏に入るだろう頃。蒸し暑い夜。私は寮母に呼び出された。
「こんな夜中にごめんなさいね。でも、どうしても話しておかないといけないことがあるの」
どうぞ勝手に座って、と。対面のソファへと手をやる。そこに座れということか。
私は、言われるままに固いソファへと腰を下ろし、一人部屋で寝ていたところを起こされ惚ける頭を捻りながら考えた。何か呼び出されるようなことでもしたか、と。
考え付く限り、授業への出席単位のことだろうかとも思ったが、寮母さんの雰囲気や表情から察するに、どうにもそれは違うらしい。
「貴女、たしか同室の……久賀峰さんと仲が良かったのよね?」
久賀峰圭子。正直、仲が良かったかについては頷きかねるが、たしかに彼女は私の同室の生徒だ。
「いい? お願いだから、落ち着いて聞いて下さいね。今から言うことはすべて本当のことなの。あの娘のお友達の貴女には、きっと悲しいでしょうけど……」
いいも何もあるものか。
悲しいも何もない。
さっさと要件を言いやがれ。
そんな言葉が口をつくが、私はそれらを飲み込んで寮母さんの言葉に耳を傾ける。
寮母さんは、今にも崩れてしまいそうな、何かに耐えているような、そんな表情で、
「彼女、……死んでしまっ……」
言葉になってたのはそこまで。
寮母さんはそれを口に出すと、ついに涙をこぼした。
「……ごめんなさい。まだ、あの娘が死んだこと、私は信じられなくて……。本当はまだどこかで生きているんじゃないか、って…………」
「そう、ですか」
信じられないも何も、
久賀峰さんが死んだ。
それは現実で。
それは変わらないことだというのに。
寮母さんは、涙を拭いもせず嗚咽混じりに震えていた。
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