878人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ
「それ、私の兄だ」
「あら、ま」
大した驚きはなかった。
むしろ嬉しくさえあったくらいだ。
「それじゃ、アナタも殺したくらいじゃ死なないわけ? あんな風に、心は死んでしまっても体は死なない――化け物」
嘯くように笑い、顎で捨てられた男を示す。
「――――」
自らを死ねないと評した男は、まるで死んでしまったかのように動かず、惨めに血の絨毯の上に寝そべっていた。
口からはひゅうひゅうと辛うじて息をしていることから、恐らくは生きているのだろうが。
目は焦点も合わず虚ろで、だらしなく涎を垂らしながら、糞尿を垂れ流し、もはや生きている人間になんか見えやしない。見たくもない。
いっそ死体の方がまだマシなくらいに、醜いもの。
ただの結果と成り果ててしまったもの。
彼は、たしかに肉体的に死ぬことはなかったのだろう。
ただ、自身を何度も、絶え間なく永遠襲い続ける死には、体が死ななくとも、心の方が死んでしまった。
不死身の肉体でありながら、心だけはまだ、人間だった。
「あれもなかなか、面白いことは面白かったんだけどね。飽きるのよ。死に方にレパートリーってものがないわ」
ゆえに、何度も何度も、普遍的に殺し続けることが出来る化け物の前に、そんな死なないだけのことなんてのは、どこまでも無力だったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!