飯降山

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 次の日、幼い尼の言っていた場所に向かうと握り飯が「二つ」置かれていた。二人はそれを見て激しく後悔した。無駄な殺生をしたことではない。握り飯の取り分が減ったことに対するものだった。老尼は暗く静かな声で言った。 「……祈りをささげましょう。」 二人は目をつむり経を上げはじめた。しかし、昨日の今日。心配になった年頃の尼が目を開けると、目の前に老尼が石を持って構えていた。辺りに鈍い音が響く。その後、わずかに意識が残っていた年頃の尼は抵抗したものの、結局は谷に突き落とされた。老尼は二つの握り飯を口にした。  その翌日、老尼は杉の木へと向かった。食べ物のことしか考えられなかった。顔は欲にまみれ、業が現れていた。その日、握り飯はその場になかった。 「猟師の野郎、殺す気か。」 老尼は思った。次の日も、その次の日も老尼はその場所に向かったが握り飯は結局なかった。とうとう老尼は息絶えてしまった。    もうすぐ春だと思えるような暖かな日だった。私はこんな夢を見た。外で日を浴びていたときだった。夢とは思えないほどはっきりと分かった。不思議に思った私は、雪の残る山を登り杉の木へと向かった。そこには骸が一体転がっていた。丁寧に埋葬した。  春になった。谷底へ猟に出かけたとき、二体の亡骸が見つかった。迷ったものの、老尼と同じ場所に埋葬することにした。  その後、この山は握り飯が降る山、「飯降山」と呼ばれるようになった。
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