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☆29
暗闇の仏ヶ浦(ほとけがうら)
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青森県佐井村....仏ヶ浦
津軽海峡に接するこの浜は、歌人『大町桂月』が、
「神の業 .鬼の手創り .仏宇陀
人の世為らぬ .処なりけり」
と詠んだ、凝灰石の奇岩・巨岩が2kmに渡り続く青森県の観光名所である。
名前の通り、この世とは思えない絶景が広がる浜だ。
宇陀(うだ)とは『アイヌ語』で浜を意味する。
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タクシーはようやく仏ヶ浦の駐車場に着いたがすでに夜の7時。
…当然のように観光客など誰一人いない。
「お客さん、やめたほうがいい!何があったがよく知らんが、もう真っ暗だ。浜に降りる階段も急で足場が悪い。滑って頭でも打ったら死んじまうよ!!」
運転手は必死になってわたしを引き止めようとするが、わたしはどうしても行かねばならない。
母や妹の命がかかっているのだから…。
「ここでわたしが頭を打って死んでも、運転手さんに化けて出ませんから。」
重苦しい空気を変えようと運転手を笑わせようとしたのだが、運転手の顔は真剣そのものだ。
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「わかったよお客さん、じゃあ、これ持っていって下さい。」
そう言いながら運転手はダッシュボードからペンライトを取り出してわたしに手渡した。
「…ワシもこれ以上は止めません。でも、しばらぐこごで待だせでもらいますから。帰りもお客さんに乗ってもらわなきゃ稼げないんでね。ペンライトも必ず返して下さいよ!」
ありがとう…運転手さん。
わたしの命があれば戻って来よう、命があれば…。
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わたしはタクシーから降りて、浜へ続く急な階段を一歩ずつ確認しながら降りていった。
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