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☆9
「…いまは忙しい。」
ハガキはいま気にしない事にした
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いまは母との約束のほうが大事である。信ちゃんには後日連絡すればよい。
「あとでまた連絡するから。」
妹に伝え、わたしは通話を切った。
「お客さん、ひょっとして沢松村へ行こうとしてるのがい?」
運転手がいきなり聞いてきた。
わたしは驚きながらも嘘はつけないと直感する。
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この辺りに観光名所や民家はない。なんの目的もなしにたった一人で来るにはあまりに不自然だからだ。
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わたしは本当の事を運転手に話した。
「幼少時代に沢松村に住んでいたんです。母からの約束を果たしに行かなければならない。」
しかし運転手は驚かなかった…。むしろわたしの言う事を予知していたかのように、
「…やはりそうでしたが。昔、沢松村に住んでいだっていう人がたびたび廃村跡を訪れるんです。村の前に花をたむけるだけですが…。」
『沢松村』に住んでいた人にとって、あそこは苦しみ悲しみの地。
事件から数十年経ったいま、ようやく気持ちの整理がついて死者を慰めようという気持ちになれるのだろう。
「面白半分で『沢松村』へ行こうとする観光客には知らないと言って案内しないんですが、お客さんは違う。喜んで案内させてもらいますよ。着ぐまでゆっくりして下さい。」
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「運転手さんは、あの村で起こった大まかな事は知っているようですが、詳しくは知っているんですか?」
わたしは運転手がどの程度まで知っているのか知りたくなった。
「話は知り合いの爺様から聞いただけで詳しぐは…。私もまだ生まれでながったもんで。」
「運転手さんがもしも詳しく知りたいのであれば、生き証人であるわたしが沢松村の事件について話しますよ。」
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長らくこの事件については、家族内だけで収めていた闇の話だった。
…しかし心の中では、一人でも多くの人にこの話をしたくてしょうがなかった。
話を聞いてもらう事で少しでも気持ちが楽になると思っていたからである。
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運転手は地図から消された村『沢松村』の事を知っている。
…だが何も知らない観光客には『沢松村』の存在を否定し、教え聞かせる事はない。
…彼に話をしても他言することはないだろう。
「本当ですが!?是非ども聞がせで下さい!」
運転手が興奮気味に声を荒げた。
☆10へ進んで下さい。
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