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綺麗な薔薇には棘がある。
そう喩えたのは、何時の時代の者であったか。
甘い香りと鮮やかな色彩に手を伸ばせば、忽ち痛い目を見ることになる、と言ったのは。
薔薇にしてみれば、良い迷惑だ。
棘と呼ばれる鋭いものも、生まれたばかりの頃は幼く、柔(ヤワ)く、弱々しい。
皮膚には傷一つ付けることも叶わぬ。
その、儚きものを。
淡い色を目にしても、人はそれを愛でることを知らぬ。
ただ皮膚を裂かれまいと、刃の痛みを恐れるのみで、その脆い本質を見ようともしない。
それでは、鋭くなって当然ではないか。
愛されず、愛でられず、ただ恐ろしきものと忌避されて。
一体どうして、他者を愛することを知り得ようか。
私には解らない。
『愛』とは一体何なのか。
冷えた心は薔薇の如く。
近付くものを傷付ける。
私に触れんとするならば、荊に身を裂かれる覚悟をすることだ。
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