†荊中に眠るもの

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  綺麗な薔薇には棘がある。   そう喩えたのは、何時の時代の者であったか。   甘い香りと鮮やかな色彩に手を伸ばせば、忽ち痛い目を見ることになる、と言ったのは。     薔薇にしてみれば、良い迷惑だ。     棘と呼ばれる鋭いものも、生まれたばかりの頃は幼く、柔(ヤワ)く、弱々しい。   皮膚には傷一つ付けることも叶わぬ。     その、儚きものを。     淡い色を目にしても、人はそれを愛でることを知らぬ。   ただ皮膚を裂かれまいと、刃の痛みを恐れるのみで、その脆い本質を見ようともしない。     それでは、鋭くなって当然ではないか。   愛されず、愛でられず、ただ恐ろしきものと忌避されて。   一体どうして、他者を愛することを知り得ようか。       私には解らない。   『愛』とは一体何なのか。   冷えた心は薔薇の如く。   近付くものを傷付ける。     私に触れんとするならば、荊に身を裂かれる覚悟をすることだ。  image=268320125.jpg
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