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榛は2階の奥に設置されてる新聞のコーナーにいた。
「榛さん?何を怖い顔してるんだろう」
希美は近寄りながら新聞を覗き込む。
「"連続女子高生誘拐事件再発か!!"?」
榛は人の気配に驚いて数歩離れる。その態度は拒絶。
「ごめんなさい、あの、そんなに驚くなんて思わなくて…」
拒絶に対してのショックで動揺し上手く話せなかった。榛は、再び新聞を見つめる。希美は、気持ちを落ち着かせてから机を叩いて、榛に自分を見させる。
「あの、"私は初めて会った時から、あなたが好きです"」
一生懸命覚えた手話で告白をすると、榛は、一度驚いてから笑顔で一つの手話を返してくる。それは、好きと対で覚えた手話。好きの反対の意味、嫌い。
「なんでですか?私が子供だから?」
涙をぐっと耐えて聞くと、榛は首を左右に振る。
「手話出来ないから?」
次第に涙で目の前が滲む。
「じゃあなんで…知る前から、嫌…いって」
頑張って何度もまばたきを繰り返してる間にも視界には榛が首を左右に動かす仕草が映る。
「じゃ、どうしてよ…っ」
ついに泣き出す。
2階の奥はめったに人が立ち寄らない上、その場所は週末には、ほぼ無人になる。無人の図書館は耳鳴りがするくらいの沈黙でまるで聴力を失ってるみたいだ。その沈黙の筈の空間で、今日だけは違った。ずっと少女の鳴き声が聞こえていた。
「希美ちゃん」
足音が近付いてきて、足音の方を見ると、甲斐が立っていた。
「甲斐さ…ん…」
希美は泣きながら、小さな声で名前を呼ぶ。
「話してあげるよ」
甲斐の唇を読んで、止めろ、と榛が慌てて手話する。
「悪いな榛、手話知らないんだ」
甲斐は寂しそうな顔で榛に言うと、榛は手を下げた。
「それにこれは"希美"の為だから…」
わけが分からずに泣き続ける希美に、甲斐は、古い新聞のつづられたファイルの並ぶ棚から迷わず一つのファイルを取り出し、一つのページを開く。甲斐が指差した先には、榛が見ていた記事と同じ見出しの記事があった。
「5年前に起きた"連続女子高生誘拐事件"って知ってる?」
希美は首を左右に振る。
「だよね、あんまり有名な事件じゃないしね」
甲斐は、笑いながら話す。
「ちょうど俺達が希美ちゃんぐらいの年頃だったんだよ」
榛は、甲斐の唇を読んで、何かを思い出してるのか悲しい顔をしている。甲斐は、榛をちらっと見つめたが、知らないフリをして話を進める。
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