第二章

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北海道の一人旅で、杉村が話した出来事はそれだけだったけど、でも、杉村の苦労を僕は知っている。 子供の頃から、杉村は勉強ばかりさせられていた。 杉村の父親は大学の教授で、教授の息子は頭が良いと世間では思われていて、東京大学に入れるだけの学力を持っていて、親の跡を継ぐものだという偏見まであった。 もちろん大人たちからすれば、それはお世辞だったのかもしれないけど、純粋だった杉村には、それは決してお世辞には聞こえなかったのである。 教授の息子は大学に行く。もちろん一流大学に。 杉村にとっては、それは重たい束縛であり、世間では当然だと決めつけられている偏見としか思えなかった。 中学生の頃に、杉村がよく言っていた言葉がある。 「大人って、夢を持てって頭ごなしに言うけど、夢ってなんだよ」 杉村は眉間にシワを寄せながら、何度もそう言っていた。
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