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三夜子はタチアナをちらちらと気にしながらレンを見た。
「え?」
「だって、ラッシーと結婚したら、リュックさんが家族になるんだよ」
レンは正面を向いたまま言葉をそえた。
「二人の有名アーティストと家族になれるんだよ? 結婚しなよ」
「ああ……うん」
レンには、パリへ来てから――レンの誕生日パーティーをリュックの家で開催した――五十嵐の娘であるレティシアについて軽く話していた。しかし、ステファニーの存在は当然言えず、プロポーズされたとは口にできるはずがなかった。この〝ブルートパーズの指輪〟は卒業祝いじゃなくて、婚約指輪なんだよ、と三夜子は心のなかでつけくわえた。
「ハハハ……」笑うしかない。
それをタチアナが鋭い眼光で見ていた。その視線を感じ、三夜子は口をつぐんで俯いた。
いま、五十嵐は何をしているのだろう――そんな思いが脳裏をよぎった。
白壁の部屋じゅうに化粧品の香りと、壁にかかった衣類のにおいがただよう。フラッシュがあちこちで光り、あわただしさを増した。フランス語が飛び交い、誰もが真剣な顔つきで作業をつづけた。
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