不安定な第一章

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不意にとん、とん。と階段を降りる音が鳴る。 「あれ?お兄ちゃん帰ってたんだ…」 誰かと思えば、弟の 八重坂 樹(ヤエサカ ミキト) だった。 「ただいま」 「おかえりー」 そう言ってとてとてと歩いて来て、俺の隣の椅子に陣取ってテレビのリモコンを手に取った。 テレビは俺の部屋とこのリビングにしか無いので、特に朋美も文句は言わないだろう。 少しして、どこにでもあるようなチープなクイズ番組が流れ出す。 もぐもぐ。 ……もぐ。 「……樹、夕飯は食べたのか?」 「……?…うん、食べたよ?」 「そっか。凪紗は?」 ちなみに 八重坂凪紗(ヤエサカ ナギサ) は妹の名前だ。 「うん。一緒に食べたよ?」 「それなら良い」 「…何?その会話」 いきなり向かいから朋美の不機嫌な声が飛んできた。 「別に?ただ単に気になっただけ」 お前が俺の妹と弟をないがしろにしていないかどうかがな。 「もうちょっと信用してよね?全く……」 ……ふぅ。 「してるよ、十二分に」 「…そ…そんな…笑顔で言われても…騙されないから……」 騙せてるじゃないか。 やれやれ。沸点の低い奴で助かった。 未だにナイフは持ってるはずだから刺激はしたくないんでな……。 かちゃり。 「ご馳走さま」 「……あぁ、はい、おそまつさまでした」 そう言って、朋美は赤い顔のまま片付けを始める。 やはり手際は無駄に良いな、とてきぱき片付けているのを見ながら思った。 ……別にどうでもいいか。
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