遺ス想ヒ

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「‥‥っんなっ!か、カマかけたんスか!?」 そんな男の行動に市村少年はからかわれたのだと知り、顔を真っ赤に染めて男に抗議した。 「ククッ、分かり易すぎんだよ、テメェは。」 「土方副長!」 笑いを噛み殺すように喉で笑う男の名を叫ぶ。 「“土方副長”か‥随分と懐かしい名で呼ぶじゃねぇか。」 呼ばれた名に男は僅かに目を細めた。 「‥‥すんません‥内藤さんっスよね、‥たまにワケ分からなくなっちゃって‥コロコロ変わるし‥。」 市村少年はその言葉に眉間に皺を寄せそっぽを向いてボソボソとした声で呟く。 まるで拗ねた子供のような仕草に土方は笑みを深くした。 まだ元服前の十四の年に新撰組に入隊したこの少年。隊士するつもりだったのに隊分けの際、何の気紛れか自分の小姓にしてしまった。 別段秀でた所もない上に向こう見ずで礼儀知らず。勝ち気で一度こうと決めたら脇目もふらず真っ直ぐに突き進む猪のような性格。 考えれば欠点ばかりが目立ち、褒められる所など見付ける方が難しい。 そんな少年を何故、今も傍に置いているのか自分でもよく分からなかった。 「‥‥似てんのか、アイツに。」 何の気なしに言ってしまった言葉にハッとする。 何の事だときょとんと首を傾げる市村少年の顔が視界の端に映った。 「何でもねぇ。」 「いだっ!」 誤魔化すように市村少年の額をパチンと弾くと思ったより痛かったのか涙目で睨んでくる。 まんま、子供だ。 何が似てる、だ。 年相応の反応を見せるまだ幼さの残る彼の顔と、不意に浮かんだかつて少年だった者の顔が重なってまた離れた。
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