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ぼんやりと照らす灯りの元、男は窓際に立ち外を眺める。
幾夜もそうして夜を過ごしてきた男にとって、それは既に日課のようになっていた。
大きな窓辺から見える景色は全身を真っ黒な洋装に包んだ男とは正反対に何処までも真っ白で、否が応にもこの地が北の最果てであると思い知らされる。
「‥‥全く、随分と遠くまで来たもんだなァ。」
ぽつりと呟いたその時。
コンコンとドアが遠慮がちに鳴らされた。
「入れ。」
短くそう告げてやれば僅かばかり開かれたドアからひょっこりとまだあどけなさの残る少年が顔を覗かせる。
「お呼びだと‥相馬さんから伺いました。」
視線をさ迷わせながらおずおずと口を開く少年の様子はまるで悪戯が見つかった小さな子供のようで。
その態度に勘の良い男は口の端を僅かに上げ、頭二つ分ほど低い位置に居る少年を見下ろした。
「まァた何かやらかしやがったか?‥‥市村。」
からかう様な口調で、しかし少年の名を呼ぶ時は普段より低い声を出してみる。
すると、少年は男の予想通り面白いぐらいに肩を跳ねさせた。
「いぃー‥えっ!と、特には‥何もして、無いよう、な‥?」
「どっちだ、阿呆が。」
慌てふためく様子は心当たりがあります、と吐露するも同然。
そんな少年に男はククッと喉で笑い、少年の頭を軽く小突いた。
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