第一章

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ふと目に留まった一枚の着物。 彼岸花が刺繍がしてある。 母を思い出す。 母は真っ赤な彼岸花が大好きだった。 彼岸花なんて不吉な…と思っていた。 しかし母は 「赤色を見ると、緋華を思い出すわ。」 そう言って、冬が近くなると彼岸花を見つけては眺めていた。 緋い華…。 緋華は昔を思い出し、その着物を手に取る。 すると店主の四十くらいの女が話しかけてきた。 「お客さん、恋人に?その着物綺麗でしょう。お客さんの恋人ならさぞかし美しいんでしょうね。」 緋華はやはり男装をしているから男にしか見えなかったのだろう。 緋華は店主に着物を渡した。 「これをくれ。」 「ありがとうございます。」 店主は深々とお辞儀をして、着物を受け取り、丁寧に風呂敷に包んでくれた。 「すまない。金はここに置いておく。」 緋華は巾着に入った金を店主の側にあった台の上に置き、風呂敷をもらった。 「またのおこしを。」 緋華は近くの宿屋に入り、明日の支度をする。 刀を手入れし、紅を取り出す。
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