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紅は母からもらった物だった。
緋華が七回目の誕生日を迎えたとき、母が父に内緒でくれたものだった。
母は優しい人だった。
「緋華…いつか貴女がこの紅をつけ、白装束を着るところを母は見たい。」
「母上…。」
母はいつも緋華を抱きしめてくれた。
その代わり父との会話をあまりしたことがなかった。
緋華は知っていた。
自分が望まれて生まれたわけではないことを。
緋華は紅をしまい、布団を敷く。
「母上……。」
緋華は布団に潜り、眠りについた。
――――
そしてとうとう夜が明け、また夜を迎えた。
緋華は買ってきた着物を着付けた。
髪を下ろし、女ものの着物を着れば誰もが美しいと思うだろう。
唇に真っ赤な紅をつけ、腰に小太刀をさす。
小太刀が見えぬよう、上にさらに着物を羽織る。
「よし。」
緋華は立ち上がり、部屋を出た。
屋敷の前まで行くと、女どもが騒いでいた。
緋華は小さくため息をつき、屋敷へ入る。
中では盛大に宴が行われている。
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