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遊女はパァッと顔を明るくさせて、緋華の腕を引いた。
「こっちよ。」
遊女に連れていかれた部屋は『椿の間』と書かれていた。
「さ、入って。」
遊女に言われるがままに部屋へ入ると、中は広く、さらに襖の向こうには布団が敷いてあった。
「……。」
緋華は黙ったままだった。
そんな緋華など気にもとめず、遊女は緋華に紙を渡した。
「何かお飲みになる?」
「…いや。いい。」
緋華の顔は強張っていた。
「どうしたの?」
「なんでもない。なぁ、そなたの名を聞かせてほしい。」
「…春花(しゅんか)。春花よ。」
「そうか…春花は何故、私を部屋へ呼びたがる?」
「…貴方が…好きだからよ。」
春花は目をうっとりとさせて、緋華を見る。
「…好き?それは商売用か?」
「ち、違うわ!」
春花は緋華に抱き着いた。
「一度でいい!貴方に抱かれたいの!!!」
春花が緋華を抱きしめる力が強くなる。
「…何故…よりによって私なのだ。」
「貴方が…いたから…」
「春花…。」
春花は緋華の頬にソッと触れた。
目を閉じ、口づけようとした。
しかし緋華は春花を押した。
「どう…して?」
春花はぽろぽろと涙を流す。
「すまない…ずっと黙っていて…」
「え…?」
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