第六章

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「なら…母が案内しましょう。父上のもとへ。」 「…はい。」 「明朝にたちましょう。」 緋華は頷き、部屋から出た。 「緋華…」 「…春花か。悪いが部屋に私の母がいる。世話してやってくれ。」 「わかった。」 春花は緋華に言われた通り、部屋へ入っていった。 緋華は隣の部屋に入った。 「どうだったかい?」 「蛍。悪い…明日の朝ここを出る。」 「また急な話だねぇ。」 「父上に会いに行くんだ。」 「……っ。へぇ。あんたを捨てた張本人かい。」 「…やはり私は捨てられたのだな。」 「あぁ。」 緋華は小さくため息をついた。 ふと部屋の隅に目をやる。 葵が浮かない顔をして、膝を抱え座っていた。 緋華はそっと葵に近づいた。 「どうした?」 「……なんでもねぇ。」 そっぽを向く葵はまるで子供のようだ。 蛍は二人を気遣い部屋から出て行く。 「葵…何をふさぎ込んでいる?」 「…緋華は…辛くねぇのか?」 「何が?」 「親に捨てられたり、親が死んだり…」 「………どうだかな。私自身よくわからぬ。哀しみなど昔に捨てた。」
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