第七章

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―――― 「もう行くのかい?」 蛍が少し寂しそうな顔で言った。 「あぁ。」 緋華は蛍の顔を見据える。 「私はもうここへは帰ってこないかもしれない。」 「…そうかい。そういう日が来ると思っていたよ。」 まだ太陽が昇りきっておらず、あたりは少し暗かった。 そのせいか緋華は蛍の顔がよくわからなかった。 でもきっと泣いていると思った。 「蛍、私はお前を姉のように慕っていた。本当にありがとう。」 「あんたから御礼が聞けるなんてね。今夜は嵐だ。」 二人はフフッと笑い、握手した。 「またな。蛍。」 「あぁ。」 緋華は門を開けた。葵と母が緋華を待っていた。 「蛍。私はお前のこと忘れない。だからお前も私を忘れるな。」 「自分勝手な小娘だこと。」 緋華と蛍は互いに背を向けた。 二人は決して後ろを振り返らなかった。 緋華の瞳は濡れていた。 ―――― 「殿。客人です。」 ある城で一人の男が本を読んでいると、家臣が部屋へ入ってきた。 殿と呼ばれた男はゆっくりと家臣を見た。 「誰だ。」 「はい。巫女のようです。」 「うむ。通せ。」 「はっ。」 家臣は素早く部屋から出た。 しばらくして、巫女装束を着た女が入ってきた。
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