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渡川を挟んで東西に陣取った両軍は、まず長宗我部の挑発から始まった。
「一条の奴らはわしらの大軍に怯えておるぞぉ」
具足達の嘲笑が戦場一帯に響く。
「第一陣、正面から突出し、本陣を急襲せよ」
挑発が一旦終わりを見せた辺りで元親の指令が飛んだ。
「下がれ、下がれぃ!渡り終えたところを弓矢鉄砲を浴びせるのじゃ。数で劣っている以上、攻める訳には行かぬ」
すかさず兼定も叫び、指示する。
「フッ・・・やはりそうきたか。今じゃ儀重!第二陣の騎馬隊を率い、杭のない上流へ駆け出せ!」
「承知仕った!」
と言い、駆け出した。
回り込まれる形となった一条は動揺し、上流へ向かった第二陣を追った。
「小群を分けるとは愚行。今じゃ。全軍、一気に川を渡れい!」
一条はただでさえ少ない兵力をさらに分散させてしまったため、正面から迫る倍以上の敵軍を迎え撃つだけの余力はなかった。
さらに、一条は寄せ集めの軍勢であるので指揮系統は統一されていない。
長年土佐の中央部で戦い抜いてきた歴戦の強者どもとまともにやり合えるわけもなく、たちまち総崩れとなり敗走した。
一条は数百名の死者を出したが、長宗我部方に被害らしい被害はなかった。土佐における天下分け目の合戦であった渡川の戦いは、わずか半日で終わったのだ。
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