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あたたかい風が吹く。
花の香りが漂う住宅街をひとりの少女、碧(あおい)がうつむきながら歩く。
少し離れた場所で学校のチャイムが鳴る。
ふと碧は足を止めた。
うつむいていた顔をあげ、白く小さな手で深い茶色の肩まである髪を耳にかけながら。
目に映るのは公園の入口。
公園といってもそこいらにある小さな公園ではない。
大きな池を埋め立て、丘を少し切り開いた自然あふれる大きな公園。
碧は何かに惹かれるかの様にその公園へ足を踏み入れた。
鳥のさえずり、葉と葉のこすれ合う音…子供達の笑い声のする、レンガでできた遊歩道を歩いて行くと、目の前には大きな滑り台が見えてきた。
その横を、碧は懐かしい顔で…どことなく悲しそうな顔で眺めながら通り過ぎる。
その時、碧の目の前を他校の男の子達5,6人が自転車で通り過ぎ近くに止めた。
この公園は高校生でも遊びに来る。
むしろ夜はたまり場だ。
そろそろ夕暮れ時。
子供達が帰った後に思いっきり遊ぼうってゆうこんたんか…。
碧は少し皮肉気味に思った。
家に帰ろう…
そう思い向きを変え歩きだそうとした時、急ブレーキが後ろで鳴った。
「ごめんごめん!!昨日の課題の事で先公がうるさくてさぁ。やっと説教終わらせて来た!!」
息をきらし、さっきの男の子達に話しかける少年の声に、碧は息が止まりそうになった。
足が少し震える。
後ろを振り向かないでも分かる。
というか振り向きたくない。
その声は、1年前に別れたあの子の声。
透き通る様な、かつ存在感のある元気な声。
碧の白い手は握りこぶしにされ、中には汗がにじむ。
口から心臓が出そうだ。
顔が見たい。
ゆっくりと振り返り、震える足をゆっくり進ませ、集団から自分の顔が見えない様そっと目だけを彼に向けた…。
とすぐ目を反らす碧。
間違いない。
あれは光(ひかる)だ。
後ろ髪を惹かれながらも、走ってその場を後にした。
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