第1話 桜の雪

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周りは樹などが囲んでいて、少し陽が射し込みにくい。 それによって不気味さを醸し出している神社に、ゾクッと身震いした。 意外と広いんだな…。 ジャージのポケットに右手を入れ、あるモノをを取り出す。 軟球の野球ボールだ。 右手でそれを握る。 軟球ボール独特の感触と縫い目のような模様が、人差し指と中指に食い込むのを確かめる。 ―――今 本気でボールを投げたいな… でも無理だ こんな所じゃ…… 新田じゃ俺の球を受けとめられる奴なんていない ―――くそっ!! なんで無いんだよ! 巧の悲痛な叫びだった。 頭の中でぐるぐる駆け巡る思い。 ―――投げたい あのミットが ―――投げたい 俺の球を受けとめる ミットが――― ―――投げたい ―――投げたい!!       欲しい ―――今すぐ欲しい! 巧は右手に球を持ち、両腕を頭上に掲げる。 右足を軸に、左足を軽く上げる。 左足を前に出しながら思いきり踏み込み、右腕を後ろに引く。 ―――俺の球を受けとめ られるなら 円を描くように、右腕を前に大きく振りかぶる。  
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