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…言うのか?
「…どうしたの? 言いたくない?」
麻美が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「…いや」
大花は一瞬言葉を溜めた。そして、
「おばあちゃんと二人。父さんと母さんは…死んだ」
楽しかった。
幸せだった。
思い切り笑えていた。
嫌なことなんて何一つ知らないみたいに。
知らなかった。
この世に悲しいことがあるなんて知らなかった。
しばらく「泣く」という言葉を忘れていた。
両親が目の前からいなくなるなんて、考えたこともなかった。
初めて「絶望」した。
「死」という言葉を知らなかった。
『偉いわー大花! 今度何でも好きな物買ってあげる!』
『やったー、わーい!』
ある日、小学校のテストで百点を取った私に、母は笑顔で言ってくれた。
『あ、それとも遊園地とか?』
『うーん…どっちも!』
私は少し迷ってから両方を選んだ。
『しょうがないわねー。じゃ、もう一回百点取ってらっしゃい』
母は穏やかな表情で言い切った。
『えー!? あんなに頑張ってやっと取ったのに…もう一回なんて無理だよ』
『大丈夫! あなたはやれば出来るから。それが出来た時は両方考えてあげる』
母は私の前では決して笑顔を絶やさなかった。
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