カァチャン

1/1
前へ
/810ページ
次へ

カァチャン

俺のカァチャン、サエコはヤバイ。  ヤバイくらいいい女だ。 多少、息子の欲目はあるとしても、黒く艶やかな髪や、華奢な、でもきちんと女らしさの残る体つきや、左右の大きさの違う目なんかは、充分いい女に値すると思う。 守ってあげたくなる雰囲気だって、持ち合わせていると思う。 だけども、カァチャンはいつだって逞しさを装おう。  何があっても、平気な風に。 カァチャンは、20歳で一度目の結婚をして、21歳で俺のネェチャンになった楓を産んで、23歳で離婚して、それから30歳で俺を産むまで、一人でバリバリ働いて、嫌なことがあったって、ガンガン呑んでは笑い飛ばしてきたんだから、それも当然といえば当然なんだろうけど。 「カァチャンはね、強いんじゃなくて、強くなったんだよ。強くならなければ、生きていかれなかったんだもの」 俺がまだカアチャンのお腹にいた頃、カアチャンは、俺と、それから自分自身に言い聞かせるように呟いてた。  その言葉を聞いてから、俺はいつだって思っている。 “カァチャンは、やっぱりか弱い女なんだ。俺とトゥチャンで、しっかり守ってあげなくちゃ”ってね。
/810ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4958人が本棚に入れています
本棚に追加