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誕生
カァチャンのお腹の中は、随分と居心地が良かった。
ゆらゆらと漂いながら、好きな時に寝たり起きたり、くるくると自由に動き回れて。
ずぅっと、ここにいたいって思うくらいに(早苗チャンとは違って、俺は相変わらず怠け癖が抜けないようだ)。
だけども、段々とカァチャンのお腹の中は窮屈になってきて、出ないわけにはいかなくなってしまった。
ここは、赤チャンの踏ん張りどころ。
威勢よく、行くしかない。
そうして、ようやく出た外の世界は、やけに明るかったり、騒々しかったり、自由に動き回れなかったりで、俺は泣くことしかできなかった。
図太い性質の赤チャンは、案外平気な顔でスヤスヤと眠っていたけれども、俺はいたって繊細な赤チャンだ。
お腹から出てきた俺は、知らない赤チャンがズラリと並んだ窮屈なベットに寝かされ、愕然とした。
自己紹介の一つもなく、知らない人に囲まれて、大人だって安眠できるかい?と、聞けるものなら聞きたいくらいだった。
しかも、だ。
ガラス越しには、常に見ず知らずの人々がこちらを覗きこんでいる。
いかついオジサンとか、皺皺のお爺ちゃんとか、ど派手なオバチャンとか。
そんな動物園さながらの光景は、またもや俺を打ちのめす。
無茶苦茶だ、眠れるわけがない…と。
それに…
いつの間にか、ヘンテコな帽子までかぶっている俺。
マイッタ。
隣の赤チャンも、ちっとも似合ってないどころか、滑稽ですらある。
あんなピエロみたいな帽子なんてない方が、うんと可愛いのに。
第一、全く落ち着かない。
大人だって、家の中でずぅっと帽子をかぶっていたら、嫌だと思う。
そうして、一分一秒たりとも落ち着かないまま、はじめての夜を迎えた。
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