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「だって……兎輪にとっての全ては俺だし、俺の全ては兎輪。
他の存在なんか知らなくていい……。
必要ないんだ。
だから『害』のある外になんか出させないよ?
俺は兎輪のものだし、兎輪は俺のもの……。
いや……兎輪はものじゃないな。兎輪は俺の存在理由なんだ」
ゆっくりと頬に添えられた王の手に体は拒絶しなかった。
この小さな世界(へや)の中の支配者がわかっているからだ。
そして、彼の言った言葉は兎輪を言い聞かせるものではなく、すでに定まっていたかのような真理であった。
いつの間にか王に抱きかかえられた自身の体。
流されるような感覚に安心はなかった。
しかし、王の胸に響く心音には安息の溜息を零す。
跳んだ話しではあるが、王が実は悪魔か死神であるのではないかと微かに疑ったのだ。
――それでも、彼は狂っている。
いつからか、兎輪の体の震えは止んでいた。
そして覚悟を決める。
「――王なんて……大嫌い」
この世界で飼い殺されるなら、自身にこの狂気が移る前に『兎輪』としての死を選びたかった。
そして、優しい彼を知ったまま死にたかった。
彼女もまた、彼を愛していたのだから。
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