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テレビから流れる音に耳を傾け視線を送る。
今流れているのは王が借りたDVDで、昨年に流行ったドラマだ。
基本的に好きな俳優が出演するものしか観ず、ドラマの内容には興味がない兎輪。
しかし、王に抱きしめられ何もする事なく仕方なく観ていた。
内容は、至って普通の恋愛もの。
最後はハッピーエンドで終わるのであろうと、少しありきたりな展開に肩を落とす。
「……飽きちゃった?」
「えっ?……そんなことないよ」
「そっか、でも見過ぎは良くないから続きは明日でいいよね」
リモコンでDVDを停止させ、兎輪の肩を抱き寄せる。
王に触れられる事にも大分慣れた兎輪は、王にされるままだった。
時計を見ると時刻は八時半。
窓のないこの部屋で時刻の頼りはこの時計だけだった。
この部屋に入ってから丸一日程が経っていた。
「兎輪、お風呂入る?」
後ろから兎輪の髪を撫で、耳元で囁く。
触れられる事に慣れたとはいえ、これだけは慣れることが出来なかった。
そして問題が浮上する。
今まで、トイレは鎖が繋がれていれば行かせてもらえた。
――お風呂は、入りたい……でも。
横目で王の様子を伺う。
相変わらず王は兎輪の髪を撫で、微笑んでいた。
「大丈夫。少し不安だけど、一緒には入らないよ」
不安気に眉を潜めた兎輪に王が声をかける。
兎輪の考えていた事はこれだったのだ。
「うん……。じゃあ、入ろうかな」
胸を撫で下ろし、少し強張っていた肩の力を抜く。
「でも……」
目を細め、王は兎輪の視線を捕らえる。
凍てつくような視線に感じたのは、威圧。
生唾を呑み、王の言葉を待つ。
「不安……だから。
兎輪が風呂に入ってる間、扉の前に居させて」
それだけ言い、王は小さなキスを頬に落とす。
視線に感じた威圧とは反対に、その言葉は弱々しかった。
どんな難題を言われるのかと神経を擦り減らしていた兎輪。
一緒に入るよりかはマシと考える。
「わかった。いいよ」
「よかった……」
兎輪をきつく抱きしめ、王は首筋に顔を埋めて何度も呟く。
何故、そこまで安心するのか。
風呂場から脱出するのは不可能な事を兎輪は知っていた。
元より、王から逃げる事は考えていなかった。
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