658人が本棚に入れています
本棚に追加
あぁ。そっか。
お風呂に入って、私に“死なれたら”困るんだ。
肩に触れる手が微かに震えている事から、その事に兎輪が気づくのは容易だった。
風呂場となれば溺死の危険もあるし、手首さえ噛み切れれば出血死だって容易く出来る。
彼女の危険は避けなければならない。
彼にとって最重要事項。
「……大丈夫」
大丈夫。自分に言った言葉なのか、王に対して言ったのかはわからなかった。
-*-
王は確かに一緒には入らないが、風呂場の扉を背もたれにして座っていた。
「兎輪、大丈夫?
必要な物があるなら言うんだよ」
間近に聴こえる声をかきけすようにシャワーのノズルを捻る。
「……っ」
自然と堪えていた涙が溢れ、無数に落ちる水滴に交じる。
感情を出来るだけ抑え、泣くことを我慢していたのだ。
(こんな異常に耐えられるわけがない!)
「…に…げ、たい……っ」
口をを手で押さえ、漏れる嗚咽が聴こえないようにする。
(……でも、あんな状態の王を突き放したら)
逃れたいという思いとは反対に、王に情の移る自分に嫌気がさしていた。
矛盾した考えと、思いはさらに兎輪を悩ませ苦しめる。
楽になれる方法はない。
かといっても楽に慣れることもない。
“兎”は追い詰められる。
、
最初のコメントを投稿しよう!