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浴室から出ると脱衣所には、ベージュのワンピースと下着が綺麗に畳まれていた。
何処から買い付けたのかは、あえて考えずに着用する。
サイズは勿論のことピッタリだった。
「……王、出たよ。扉開けていい?」
声をかけたと同時に勢いよく扉は開けられ、一瞬で抱きしめられる。
濡れた髪から水滴が落ち、王のシャツを濡らした。
「兎輪……」
微かに震えた声が、自身を心配していたことを物語る。
安心させるように王の背中をさすれば、王は兎輪の顔を驚いたように見つめて笑みを漏らす。
王の時折見せる笑顔は酷く繊細に見えた。
そして、そのまま王に抱えられ部屋に向かう。
一階のリビングには相変わらず明かりが灯っていなかった。
「王のお父さんまた出張?」
王の父親が貿易会社に勤めており母親も同行する為、家には王のみしかいなかった。
だから、兎輪を容易に監禁できたのだ。
「今は、確か韓国かな?
んで、その次がオランダ?」
「そうなんだ」
器用に部屋の扉を開け、兎輪をベッドに降ろす。
兎輪は疲れからか体を起こす気にもなれなかった。
「兎輪、なにか食べようか。
昨日からほとんど食べてないんだよ」
王が言っている通り、この部屋に来てから何も食べていなかった。
首を横に振りクッションに顔を埋める。
食欲はなくても眠気はあった。
(……お母さん、お父さんはこの事知らないんだろうな)
兎輪の母親は病弱で、現在も入院していた。
父親も母に付きっきりでいるため、滅多に家に帰ることはない。
両親に対して不満はないのだが、このような状況に陥った今は両親の無頓着さを恨んだ。
「私と……王は似てる」
ふと天井を見ながら零れた言葉。
王は兎輪の横に腰を降ろして兎輪の頬を撫でる。
王は否定もしなければ肯定もしなかった。
「兎輪は似てるから互いを求めると思う?」
返ってきた質問に答えることなく、瞼を落として視界を遮る。
瞼にキスを落とし王は兎輪の背中に腕を回した。
「残念。俺に親や境遇は関係ない。
兎輪が想ってるより、俺の想いは純粋な愛だ。
淋しいから求めるんじゃない。愛してるから必要なんだ」
背中に感じる体温から感じたのは、確かに愛情だった。
(本当に悪いのは私なのかもしれない)
与えられる愛に溺れ、呼吸さえままならない。
伝わる体温に心は犯されていた。
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