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しばらくの沈黙が続いたが、それは王の溜息で終わる。
「お話しはおしまい。
とりあえず何か食べないと。適当に作ってくるから、大人しく待ってて」
横のなっている兎輪の頬に唇を落とし、手に施された手錠に鎖を繋げる。
重たく、軋む鎖の感触に慣れてしまっていた。
部屋から王が出たのを確認し、部屋を見渡す。
窓の無い、無機質に飾られた部屋には見飽きてしまっていた。
「……」
ベッドから降り、部屋の中を一周して歩く。
自分の写真しか飾られていない写真立てに嫌気を感じながらも、一つ一つ見て回る。
後からついて回る鎖の音は耳障りだったが、足元に視線を移すとその鎖が絡んで引っ掛かっている事に気づく。
何もする事がないため、溜息を吐いてから鎖を解き始める。
高い金属音と鉄の独特な臭いに慣れた感覚は、日常から離れていた。
規則的な元の流れに鎖を整えた後、兎輪はまじまじと鎖を眺めある事に気づく。
(トイレよりも……遠くに行ける、かも)
鎖の長さを確認したが、引っ掛かっていた分の鎖の長さを合わせると、一階までは行けるような気がした。
幸い扉の鍵はかかっていない。兎輪が疲れて動けないと思った王は扉を少し開けて出て行ったのだ。
外に出ようとは考えないが、部屋の外に興味があるのは確かだった。
静かに扉に近づき廊下の様子を覗く。
見慣れた場所に安心からか溜息が零れる。
鎖の音がしないように注意を払い、階段を下りる。
一歩、一歩踏み出すたびに心臓の音が速くなるのを感じ、無駄と分かりながらも胸を押さえて落ち着かせようとした。
一階からは王特製のカルボナーラの匂いがしていた。
「……お腹すいた」
肩を落とし、素直に腹部をさする。
いつのまにか心音も静まり、穏やかな気持ちになる。
王の背後に立ち驚かそうかと思ったが、鎖の長さはそこにたどり着くまだはなかった。
小さないたずらでさえこの鎖は制限した。
鎖の余裕はまだ少しあり、鎖を持ち上げて重さと感触で弄んでみる。
小さな音をたてるだけで鎖に変化はない。
指先は冷たくなるだけだ。
「もう戻ろう」
踵を返し、階段を上ろうとした時だった。
「……?」
階段の途中にあった小さな窓から微かな声が聞こえ、不審に思いながらもカーテンの隙間から覗いてみる。
光を入れるためだけなのか、窓は開かないように固定されていた。
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