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わずかに目を動かし、あたりの様子を伺う。
高さは思っていたほどなく、もしも鎖がなくて窓が開けば容易に脱出できた。
「……遥香と…狩野くん?」
見慣れた丸い頭とミルクテイー色の頭。
酷く懐かしさを感じ、声を出しそうになるが慌てて口を押さえる。
遥香と狩野は兎輪に気づいていないのか、なにかもめている様子だった。
小さくガラスを叩き、二人を呼ぶ。
二人同時に肩を揺らして固まる。普段、顔を合わせれば口論している二人が同じ動作をすることは珍しく、自然と笑みがこぼれる。
ゆっくりと体を動かし二人は兎輪と向き合うと、驚いた表情を浮かべた後に眉間にシワを寄せた。
「……馬鹿ウサギ!!なに捕まって……っ」
「大きな声出さないでくださいぃ。あのクソ変態の兎輪ちゃんマニアに見つかっちゃいますう。
兎輪ちゃん、大丈夫ですかぁ?」
遥香は狩野の首を一瞬で絞めて笑顔を浮かべる。
表情に穏やかさは感じられるが、言葉には棘があった。
「大丈夫だよ。だけど、どうして……?」
王に気づかれないよう、声は出さずに口の動きだけで言葉を伝える。
兎輪の無事を確認した二人は安心した様子で頷いた。
「兎輪ちゃん、やっぱり錦織に監禁されてたんですねぇ……。
かわいそうですう。錦織うざいですう。
でも遥香が助けてあげますう!」
「俺が助けるって、さっきから言ってるだろ」
「うるさい、ハゲろですう」
いがみ合いになる前にと兎輪はガラスを一回叩き、二人の注意を向けさせる。
「だめ。王は私が説得するから、二人はこのまま帰って」
凶器を持った彼にはもはや説得しか残されていなかった。
そして二人を巻き込みたくなかった。
「帰らないから」
「私もですうー。友達見捨てるなんて出来ないですう」
即答で答えた二人に兎輪は肩を落とす。
一度言い出したら二人とも言うことをきかなくなるのだ。
「そんな……」
どうにかして二人を説得しようかと考えている時だった。
温かみのある匂いと、腰に回された腕。
「兎輪、外に出たら駄目だろ?」
淡々と耳元で響く声色に身震いをさせる。
そして一瞬の内に窓から体が離され、視界から二人の姿が消えた。
(……最悪だ)
王は片手で兎輪を軽々と持ち上げ、階段を上る。
下からは兎輪の名前を呼ぶ声が聞こえるが、今はその声には応えられなかった。
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