658人が本棚に入れています
本棚に追加
-*-
(――王がとても愛しい……)
愛情、恋情、悪感情、哀情。
定かではない思いが胸を馳せていた。
近くて遠い、存在。
泣き疲れお互いの緊張が解けたのもあり、いつの間にか抱き合ったまま寝てしまっていた。
先に目覚めた兎輪は王の腕を退かそうとしたが、王の腕はさらに兎輪を抱きしめる。
諦めてそのままの体制で居ようと思った時、王のポケットに違和感を感じソレを取り出す。
久しぶりに対面した自分の携帯電話だった。
癖のように携帯を開けると、三桁単位の着信とメールがあった。
主に着信は狩野でメールは遥香だった。
(謝らなきゃ……。
私の為に心配してくれたんだから。
王の事も言わなきゃ、二人とも勘違いして強行突破してきそう)
口許を緩ませ、二人にメールで返事を返す。
内容は自分が無事な事と、王を肯定する言葉だ。
「……ありがとう、遥香も狩野も」
あとは送信ボタンを押すだけだった。
「兎輪何してるの?」
体を引き寄せられ、下腹部から抱き締められる。
両腕に込められた力は苦しいものに変わりはなかったが、不安はなかった。
首を横に振ってやましいことはしてないと伝える。
水を飲んでも、寝ても王を前にすると声を出せずにいた。
一旦、メールを中断して文を打ち込む。
声が出ればすぐに伝わるものだが、今は携帯でしか意思を伝えるものがなかった。
王は黙って兎輪の髪を撫でながら、指先を見つめる。
『おはよう
携帯が王のポケットに入ってたから見た
ごめんなさい
それいがいは何もしてない』
焦ってひらがなだらけの言葉になったが、王に見せる。
王はそれを目で追った後に、兎輪の額にキスを落として微笑んだ。
「大丈夫だよ。
怒らない。その携帯は兎輪のなんだから兎輪の自由にしな。
……でも」
兎輪の手からするりと抜けた携帯。
それは王の手に収まった瞬間に
パキリ、と悲鳴をあげた。
、
最初のコメントを投稿しよう!