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「言っただろう、必要ないと……。
兎輪はもう外になんて出なくていい。
無理に周囲を気にしなくてもいいんだ。
笑いかけなくていい……。
ただ、俺の為に生きて?」
子供が玩具を欲しがるような瞳をした王に身体が強張る。
まさに無邪気さと残酷さは紙一重。
時折魅せる幼い仕草は同時に危うさを秘めていた。
亀裂の入った携帯は役目を終えたかのように王の手から落ちる。
(私は、ひとりになる)
無意識に流れた涙は悲しみからではなかった。
(かわいそうだから。
私も、王も。でも王は知らない。
だから憐れに見える)
王の手を取り手首に残っていた傷跡に唇を落とす。
哀れむように、慈しむように。
そして自身を苛む。
「兎輪、首に腕を回して」
小さく頷き王の言うとおりに腕を回す。
全身で感じられる王の匂いに安心し、瞼を落とす。
首筋に感じた王の熱に不快感はなく、むしろ心地よいものだった。
流れるように肌を這う唇と舌は感覚を麻痺させ、残ったのは本能的な快感だけだった。
「愛してる、愛してる……
だから……っ――」
必死に涙をこらえ愛を貪る少年の姿。
求めて、求めて、手に入れた甘露のような少女は
ただ、与えられる愛に喘ぎ
絶望した。
――ただ、普通に愛しあいたかった。
ひとり、兎はさみしさと与えられる愛情のなかで死んでしまったのかもしれない。
――愛しい獣の腹のなかで。
‐end‐
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