芳野 綾織

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覚えていない分、助かった事もあった。 両親が死んでも哀しくなかったから。 聞きようにしたらなんて冷酷なんだろうと自分でも思うけれど、哀しくない分前に進めた。怪我を治して、リハビリをして…自分を日常へ返す練習。自分は綾織じゃない、だとしたら誰なのか。ただその疑問だけが浮かぶ考えを掻き消すようにただ一心に。 日々必死に取組む自分を見て人は私を哀れんだ。 可哀相だ、と。 違う、可哀相なのは芳野 綾織だ。 両親を失い、自分も大怪我をしてあまつさえ記憶を失って。 私は 芳野 綾織であって芳野 綾織ではない。 だから哀しくなんてなかった。
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