3人が本棚に入れています
本棚に追加
覚えていない分、助かった事もあった。
両親が死んでも哀しくなかったから。
聞きようにしたらなんて冷酷なんだろうと自分でも思うけれど、哀しくない分前に進めた。怪我を治して、リハビリをして…自分を日常へ返す練習。自分は綾織じゃない、だとしたら誰なのか。ただその疑問だけが浮かぶ考えを掻き消すようにただ一心に。
日々必死に取組む自分を見て人は私を哀れんだ。
可哀相だ、と。
違う、可哀相なのは芳野 綾織だ。
両親を失い、自分も大怪我をしてあまつさえ記憶を失って。
私は 芳野 綾織であって芳野 綾織ではない。
だから哀しくなんてなかった。
最初のコメントを投稿しよう!