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「もうやだ……もうやだよ……」
涙で頬を濡らした桜は虚ろな声で言う。
「帰りたい……家に……帰りたい……」
膝を抱えて泣きじゃくる桜の手を、僕はもう離すまいと強く握った。
町外れの廃工場の事務室は隙間風が吹き込んできてとても寒かった。
日光が遮られ、暗い暗いその場所で僕たちは身を寄せあって、寒さをしのいでいた。
「きっともうすぐ終わるよ……」
どんなに語りかけても、僕の言葉なんか今の桜に届いていないだろう。
僕が握った桜の手は人形のように力なく、温もりが無ければとても生きてる人間の手とは思えないものだった。
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