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悠の働いている【クロノス】は、少し特殊な喫茶店だ。
普通の喫茶店は昼前から夕方なのだが、【クロノス】は夕方五時から夜の八時までの三時間が開店時間となっている。
実に変わった喫茶店だが、客足はそこそこ。
大体が常連で、マスターである進藤源治のコーヒーの味を求めて足を運んでくる。
顔はその筋の方のようだが、その腕は確かだ。
「幽霊か……クロス君は信じてるのかい?」
「信じませんよ。俺は非科学的なもんは信じないって決めてるんです」
「クロス君らしいけどさ……」
マスターの正面でカップを両手で包んでいる女性が、おもむろに口を開いた。
「もう少し恵那ちゃんに構ってあげたら?女の子ってのは冷たくしちゃうと、自分の部屋の隅っこで泣いちゃうもんなんだよ?」
「麻里さんもそんな経験が……フヒハヘフ」
悠の頬を引っ張って満足すると、つまんでいた両手を放した。
進藤麻里……今年で二十歳になる大学二年生で、たまに源治の手伝いをしている。
【クロノス】の看板として活躍中だ。
「クロス君はね、少し女の子に冷たいの。最悪適当だったり……今時クールな少年なんて流行らないんだから」
「お言葉ですが麻里さん、俺はマスターより適当じゃない自信があります」
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