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オウムが挨拶してる…。
『オハヨー・オハヨー・オハ…!』
ゆっくり現実に引き戻される。
自分のアパートの、自分のベッド。『夢じゃ、ないんだよな…』
ジャングルだったら、良かったのに。昨日はやっぱり現実だった。
月曜の朝。けたたましく鳴く携帯オウムをオフにして、ベッドから出る。
『今日も会社行かないとダメなのか…』
溜め息をこらえて、時計を見た。朝食さえ作らなければ、出社までまだ余裕がある。どうせ、今は何も食べる気がしないし。
そのままシャワーでも浴びようと、バスルームに向かう途中、洗面台に備えつけの鏡が目に入った。
ふと、足が止まる。
…自分の顔を覗きこんだ途端、思わず溜め息が出た。『はぁ……。』
今は、しかたないよなぁ…。
自分に言い訳してる自分が堪らなくイヤで、また一つ、溜め息をつきそうになる…。
小さな商社の経理課に勤めてるオレには、同じ会社に勤める、2才年下の彼女が『いた』。
…昨日までは。
一昨日の土曜、休日出勤していたオレは、デートでもしようと思い、アケミの携帯に電話した。なかなか出てこない。仕方なくタバコを一本。
念の為、もう一本…。
かけなおす。何故かヒソヒソ声。
『…なに?…ゴメン、忙しいんだけど』
『誰かいるの?』
『なんか用?』
…そっけない返事。
(そういえば、最近かまってやってなかったし…。)
慌てて機嫌とりに変更。
『明日、どっか行かない?最近かまってやれてなかったし、アケミの好きなトコ連れてってやるから。な?』
『………』
…沈黙。そして、オレが『やっぱり誰かいるんだろ?』って言おうとした瞬間、返事が返ってきた。
『…ゴメン、明日はもう友達と約束入ってるの。』
『誰?』
『高校ん時の。ゴメン、忙しいから切るね?ゴメン』プツッ。
(こりゃ相当機嫌悪いな…。なんかプレゼントでもしないと…)
彼女とは、付き合い始めて二ヶ月になる。そして、こういう事は何度かあった。
アケミは目のクリっ!とした、アニメ声の女の子。華奢で小柄な、いわゆる『まもってあげたい』タイプ。男性社員のウケは、すこぶるいい。
…一度だけ、一部の女性社員が『キャバ嬢みたい』って陰口叩くのを耳にした事はあるけど、多分ヤッカミだろう。
…彼女とのデートは大抵、食事かショッピングだ。
最後の一線は、まだ越えさせてもらえない…。
オレは、明日プレゼント用に何を買おうか、なんて考えながら、ウチへ帰る。
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