はじまりのおわり

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翌日。つまり、昨日。 昼近くに起きたオレは、アケミの機嫌をなおすべく、彼女お気に入りの雑貨屋へ出掛けてきた。帰りにでも遅いブランチを済ますつもり。 アケミ、前のデートの時にここのアクセサリーの前で動かなかったもんなぁ。 ナントカいうブランドの一点モノだとかで。ハートの重なったピアス。しかも、手がでない程の値段じゃなかった。 オレはそういうの無頓着だから、よくわからなかったけど、アケミがそれを欲しがってる事だけは、よくわかる。 でも、その時は手持ちが足りず(結構高級な昼御飯を食べてたから)、アケミの物欲しそうな表情に気が付かないフリをして、この店を出た。 まだ、売れずに残っててくれよ…! 脇目もふらず、アクセサリー・コーナーへ。 あった! ショーケースの中に、そいつはまだ待っててくれた!店員さんは…? 男一人が乙女チックな店の中で、マジな顔してキョロキョロ…。今思うと、相当怪しい光景だな…。 それでもその時は真剣だったから。周りの客なんぞ、気にもしてなかった。 ツイてない時はそんなもんで、近くに店員の姿はない。 焦れたオレは、レジまで店員を呼びに行く。 他の誰かに、買われてたまるか! 相当早口で店員さんに買いたい旨を話し、せっつくようにしてショーケースまで戻って…!? 例の『ブツ』の前に、一組のカップルが! コイツら、まさか! …会話が、聞こえてきた。『安いてオマエ、結構するやんか』 『でも、この値段で一点モノなんだよ?世界に一つ、なんだよ?』 ……やっぱり! 幸い、彼氏の方はまだ決めかねてる様子。 それはオレが買うんだ! アンタらには悪いが、譲れないぞ! 『あぁ、そこのショーケースに入ってるやつです』 意地悪いな、とは思ったが、オレはカップルに聞こえるように、やや大きい声で店員さんに話しかけた。 オマエら、残念だったな。そのピアスには、もう買い手がついてるんだ…! さあ、そこをどいてくれ!さすがに気になったか、女の子のほうが振り向いた。そして…。 オレは、息が止まった。
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