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『あんた、なんで?!』
…なんでって?あれ?
『ナニしてんの?!』
……………え?
『アケミ、こいつ誰や?』…やっぱりアケミだよ。このひと、そう呼んだよ、今。…て事はこの関西弁のひとが、高校時代の友達?アケミ、千葉出身だったよね?
そのアケミが今、凄い顔してオレを睨んでる……。
『会社のひと。しつっこいの!』
このシチュエーション、どう考えても旧友に彼氏を紹介してるんじゃないな…。
『………アケミ、これって、』
そこまで言うのが精一杯。思考のロレツが、まわらない!
『オマエ、ナニひとのオンナ呼び捨てにしとん!』
最後のパズルピースが音をたててはまった。最悪の『絵』の、出来上がり。
途端に、頭が働きだす。
二股、か。しかも、あっちが本命…。
いや、良く考えてみると、二股ですらないのかも。
適当にあしらわれて、たかられてただけなのかも。
道理で、エッチさせてくれないわけだ…。
『………はぁ…』
情けなさと悔しさで小さな溜め息がでた。
それを見たアケミが微笑む。眉間の皺はそのままで。『それがイヤなのよ!いっつも溜め息ばっかりついて!本当、陰気よね?!』
最悪だと思ってた『絵』に、さらに色を重ねられる。『気持ち悪いから、ついてこないで!あぁ、会社行って変な事いいふらさないでよね!』
『絵』は、真っ黒な四角になった。
『…それ、ください…』
『お客様?』
あまりの事に放心していた店員。
『それ、買います…、そこにある、ピアス』
『え?あ!はい!こちらですね?…いま、お出しいたします!』
ショーケースに駆け寄り、手早く鍵をあける店員。それを見守る、無言の三人…。
『こちらでよろしいでしょうか?』
『はい、それです…』
『では、レジのほうへ』
目の端にうつるアケミの顔には、困惑と…僅かな期待がみてとれた。
『贈り物ですか?』
『…ええ。』
包装を待つ時間が、永遠と思えるほど長い…。
背中には、二人分の視線。『お待たせしました』
『ありがとう』
『お支払いは?』
『現金で』
『かしこまりました』
支払いを済ませ、小さな紙袋を受け取ったオレは、真っ直ぐ店の出口へ向かった。
『…あ』
聞き慣れた声がした。
振り向かず、ドアを押す。『ありがとうございました!』
…このピアスがアケミの耳にぶら下がるのだけは、見たくない。だから。
後ろで、ドアの閉まる音。『はぁ………っ!』
溜め息と一緒に、涙がでた。
オレのプライド、五万八千円。
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