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「オパ(お兄さん)ありがとう。またね。」
部屋のドアを開けながら、ワタシは満面の笑みを男に送る。
間抜けた顔の男の返事が聞こえる前にドアを閉める。
口の中の気持ち悪さを耐えながら、エレベーターのボタンを押す。
今日三回目のワタシをホテルのキャッシャー窓口から頭の薄いマネージャーが、薄ら笑いで見送る。
ホテルの玄関を出ると、黒いワンボックスが止まっている。
ドアを開けて乗り込むと、ドライバーの山下がシートを倒して、口を開けてねている。
ワタシは乱暴にドアを閉める。
山下が驚き、飛び起きた。
「ソラちゃん、お疲れ。」心の無い労いをワタシにかけてくる。
「ワタシ、今日は疲れた。」少し甘えた声を出す。
「でも、泊まりの客が待ってるよ。」山下がワタシを見ながら言う。
「伊原の社長だけど、断る?」山下の口元に笑いが浮かぶ。
「ダメだよ!伊原社長は大事なお客だから。」ワタシは少し慌てて応える。
「じゃあ、行くよ。」山下が車のエンジンをかけた。
「でも、伊原社長も元気だね、週に二回だろぅ。」山下は下びた笑い声を出す。
「何も知らないくせに。」ワタシは心の中で囁く。
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