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伊原は週に二回ワタシをホテルに呼び出す。
ホテルの部屋で伊原はワタシと話をし、風呂に入り、そして眠る。
決してワタシを抱こうとしない。
一晩中ワタシの頭の下に腕を置き、ワタシの手を握り抱きしめて、寝かしてくれる。只静かに、朝まで安らぎをくれる。
始めの頃ワタシは、伊原が不能なのだと思っていて、ふざけて触れてみた。
伊原は困った顔でワタシの頭をコツいた。
「くだらん事するな。」と子供のイタズラを叱る様にワタシに言った。
ワタシは混乱して、伊原に問い掛けた。
「伊原さん、どうして?何故ワタシとしない?」
伊原は更に困った顔でワタシを睨み「年寄りはな、一発が命懸けやからなぁ。」と、最後は苦笑いを浮かべてワタシに応えた。
ワタシは、伊原をこれ以上困らせてはいけないと思い話を切り上げた。
理由なんてどうでもいい。ワタシは伊原の暖かい胸と暖かい手を、失いたくなかった。
仕事で疲れた心と身体を、伊原は何も言わないで暖めてくれる。
伊原はワタシの唯一つの逃げ場所なのだ。
今日もどれだけ疲れた身体であっても、伊原の傍にいるだけで、明日も生きていてもいい気がする。
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