189人が本棚に入れています
本棚に追加
その声の調子は、まるで仕事帰りの娘を迎え入れるかの様だった。
「直ぐにお風呂の用意をしますね。」
ワタシはまるで自分の男に言う様に、伊原に声をかけた。
伊原はそんなワタシに
「バタバタするな。座って一服しぃや。」
と、画面の中のアクション映画を見ていた。
「腹は減ってないか?」
伊原はいつものセリフをワタシに言う。
「ハイ、大丈夫です。仕事の前に食べました。」
ワタシは、父に答える娘の様に返事をする。
ワタシは伊原とする、こんな会話も大好きだ。
ワタシは伊原にコーヒーを入れる。
他の男には、こんな事はしない。
ワタシの伊原に対しての、好意の表し方。
精一杯の。
気が付くと伊原は、ワタシの後ろ姿をじっと見ていた。
「どうしたの?」
ワタシの問いに
「何でもない。コーヒー飲んだら、風呂入って寝るか?」
と答えた。
「ハイ。」とワタシは答えて、伊原の前にコーヒーを置いた。
ワタシと伊原は無言でコーヒーをゆっくりと飲む。
コーヒーの一口ごとに、ワタシの心の中の凝りが解けて行く。
伊原はコーヒーに口を付けながら、ワタシの様子を静かに見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!