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聖月宮(せいげつのみや)では、水や風の精霊が穏やかに時を過ごしていた。
眠り、という概念のない精霊たちである。当然夜など存在するはずもなく、いつも穏やかなひかりに満ちている精霊界。そんな精霊界はふたつ存在する。太陽を源とする聖陽宮(せいようのみや)と月を源とする聖月宮。対象的なこの存在は、光と闇、地と風、火と水をそれぞれ属性とし、均衡を保つことによって人間界を加護しているのである。
常なら静かなはずの聖月宮が今は喧騒に包まれていた。
聖月宮の神殿、賓客室。
品の良い調度の並べられた一室をこれから迎えるであろう客の為に飾りつけをしている精霊たちの姿がある。
「ここに飾る花はやはり白がよろしいかしら?それとも思い切って深紅?」
「そうねぇ。シリウスさまは白がお好きとか。白い花にしましょう。花が際立つように花瓶は……――――?」
気配を感じて振り向いた風の精霊はそこに思いがけない存在を認めて立ちすくんだ。
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