序章~逢瀬~

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満月の夜。 煌々と月が照らしだす大地は、ひっそりと眠りに沈む。 風はなく、春の暖かな空気が生命の息吹を感じさせるわずかな乱れをうみながら、ゆるやかに漂う。 郊外に広がる森の中。ぽっかり空いた広場に瑞々しい大樹が一本、己を誇示するでもなく静かに、でも確かな存在感を持ってそこにある。 黄緑の葉が折り重なる隙間からぽつぽつと山吹色の花を咲かせ、広い範囲にわたって枝を伸ばしていた。 その大樹のひときわ丈夫そうな枝に腰掛けているのは、どこか稚(いと)けなさを残す少女であった。 長い月色の髪に銀の髪飾りが鈍く煌めく。淡雪を思わせる白い肌に、頬を彩る薄紅。月色の瞳を縁取る眉はきれいな弓形で、優しげな笑みをたたえた唇は桃色。すべてが理想的な配置で小さな顔に納まっている。 着ている服は純白。足首まで隠す長い裾と、少女が気紛れに動かす腕の袖口には精緻な幾何学紋様が銀糸で縫いつけられ、きゅっ、と腰のくびれに巻きつけられた紺碧の帯が、はっとするほど鮮やかだ。
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